大阪地方裁判所 昭和56年(ワ)860号 判決
【主文】
一 被告は、原告に対し、金三八万七〇〇八円及び別表実施料相当額欄記載の各金員に対し同表遅延損害金起算日欄記載の日から各支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
二 原告のその余の請求を棄却する。
三 訴訟費用はこれを六七分し、その一を被告の、その余を原告の負担とする。
【事実】
「第二 当事者の主張
一 請求原因
1(一) 原告は次の実用新案権(以下これを「本件実用新案権」といい、その考案を「本件考案」という)を有していた。
考案の名称 建物用換気口枠
出願 昭和四二年二月二一日(実願昭四二―一四四七一)
公告 昭和四七年六月二一日(実公昭四七―一七九四八)
登録 昭和四八年一月一六日(第九八九三三九号)
実用新案登録請求の範囲
「プラスチック成型品よりなり、周枠3はその内縁の全周又は一部に背面側に延びる縁壁4を連成し、周枠3内を縦棧1或は横棧2等で区分してこの各小区画内に傾斜壁5を小間隔を保つて配設すると共に該傾斜壁の下縁a並に上縁bを小幅の垂直壁面となし、各傾斜壁の下縁aと下段傾斜壁の上縁b間には所定の間隙を形成して該間隙に小間隙を保つて細棧7を設け且つ細棧7の両側縁に鋭利な刃状部dを形成し、周枠3並に縦棧1横棧2等は裏面に窪みのある断面U字形とし、縦棧横棧等の両端を周枠3外に延長して突出部eを形成した事を特徴とする建築用換気口枠。」
(二) 本件実用新案権は昭和五七年二月二一日存続期間満了により消滅した。
2 本件考案の構成要件及び作用効果はつぎのとおりである。
(一) 構成要件
(イ) プラスチツク成型品よりなり、
(ロ) 周枠3は、その内縁の全周又は一部に背面側に延びる縁壁4を達成し、
(ハ) 周枠3内を縦棧1或は横棧2等で区分してこの各小区画内に傾斜壁5を小間隔を保つて配設すると共に、
(ニ) 傾斜壁5の下縁a並に上縁bを小幅の垂直壁面となし、
(ホ) 各傾斜壁5の下縁aと傾斜壁5の上縁b間に所定の通気間隙6を形成して該間隙6に小間隙を保つて細棧7を設け、
(ヘ) 細棧7の両側縁に鋭利な刃状部dを形成し、
(ト) 周枠3並に縦棧1横棧2等は、裏面に窪みのある断面U字形とし、
(チ) 縦棧1横棧2等の両端を周枠3外に延長して突出部eを形成した
(リ) ことを特徴とする建築用換気口枠。
(二) 作用効果
(い) 本件考案の建物用換気口枠は家屋の棟下壁面(妻壁)の換気口に周枠3の縁壁4を嵌入せしめると共に、周枠3の外側縁並に縦棧1や横棧2の両端を延長した突出部eを妻壁の壁面に当接状とし、周枠3の四隅等に形成した小孔8を利用してビス止め又は釘止めして簡単に取付けることができる。
(ろ) 傾斜壁5があるので雨の吹き込みを防止し、傾斜壁の下縁a並に上縁bが小幅の垂直壁面を形成しているので、強い雨の吹き込みがあつて水滴が傾斜壁5の外側表面を上昇しても上縁a、下縁bの垂直壁面に突当り、侵入を防止する効果がある。
(は) 各傾斜壁5間の通気間隙6に細棧7が小間隔を保つて設けられているので通気が充分に行われる。
(に) 細棧7が小間隔を保つて配設され、細棧7の両側縁に鋭利な刃状部dが形成されているので、鼠や鳥類が通気間隙より侵入しようとするとこの刃状部dが体に喰い込み痛みを与え、侵入を防止する効果がある。
(ほ) プラスチックの成型品で全体が形成されているので、任意の色彩を施すことができ美麗な外観を呈することができ、一工程で成型するので安価に工業生産することができ、風雨に晒されて長期使用するも腐朽のおそれがない。
3 被告は別紙第一物件目録(以下「イ号物件」という)、同第二物件目録(以下「ロ号物件」という)記載の建物用換気口枠を業として製造販売している。
4 イ号、ロ号物件の構成及び作用効果は次のとおりである。
(一) 構成
(イ)′ プラスチツク成型品よりなり
(ロ)′ 周枠3は、その内縁の全周に背面側に延びる縁壁4を連成し、
(ハ)′ 周枠3内を三個の縦棧1と二個の横棧2で区分し、この各小区画内に傾斜壁5を小間隔を保つて配設すると共に、
(ニ)′ 傾斜壁5の下縁a並に上縁bは、小幅の垂直壁面を形成し
(ホ)′ 各傾斜壁5の下縁aと上縁b間に小幅の通気間隙6を形成し、通気間隙6に小間隙を保つて細棧7を設け、
(ヘ)′ 細棧7は、その両側縁に鋭利な刃状部dを形成し、
(ト)′ 周枠3並に縦棧1、横棧2は裏面に窪みのある断面U字形をなし、
(チ)′ 縦棧1と横棧2の両端は、周枠3の外方へ延長して突出部eを形成した
(リ)′ 建物用換気口枠。
(二) 作用効果
イ号、ロ号物件は右構成を有することによつて、前記2(二)記載の作用効果を有する。
5 イ号、ロ号物件は前記のとおりその各構成がそれぞれ本件考案の各構成要件を充足し、作用効果も本件考案のそれと同一であるから、本件考案の技術的範囲に属する。
6 原告は昭和五四年一〇月五日被告との間で甲第五号証、乙第一号証記載の実施契約(以下「本件実施契約」という)を締結した。本件実施契約の内容は、実施料を仕入単価の三パーセントとし、本件実用新案権の「販売」の実施を許諾するものである。
7 被告は昭和五四年以降毎年イ号、ロ号物件を少なくとも各一一万八〇〇一個、合計二三万六〇〇二個製造販売し、昭和五四年一〇月五日から昭和五七年二月二一日までの間各二七万四九四二個製造販売した。
右数字は、被告がイ号、ロ号物件を昭和四九年に計二二万三一八〇個、昭和五〇年に計三四万九六八〇個、昭和五一年に計二八万三三五〇個、昭和五二年に計一七万二〇七二個、昭和五三年に計一五万一七三〇個各販売している(年平均二三万六〇〇二個、甲第三号証)ことから推定したものである。
また、被告はイ号物件を小売単価一四〇〇円、ロ号物件を小売単価九〇〇円と表示したカタログを小売業者に配布して販売しており、右商品は金物卸業者の取扱に属し、一般に、金物・荒物小売業者の売上粗利益率が一九・八パーセント、金物卸売業者の売上粗利益率が一八・七パーセントである(甲第一三号証の一、二)ことから、被告の仕入単価はイ号物件が九八四円五一銭、ロ号物件が六三二円八九銭である。
1,400円÷(1+0.198)=1,168円61
1,168円61÷(1+0.187)=984円51
900円÷(1+0.198)=751円25
751円25÷(1.+0.187)=632円89
8 したがつて、原告は、右単価に実施料率三パーセントと前記推定仕入数量各二七万四九四二個を乗じた金額の合計一一三四万〇七三五円の実施料債権を有する。
9 被告は本件実用新案権につき、販売の通常実施権を有するにすぎないにもかかわらず、前記のとおりイ号、ロ号物件を製造して本件実用新案権を故意又は過失により侵害した。
ところで、原告は昭和四四年一二月三〇日、訴外岸本成型株式会社(以下「訴外会社」という)に対し、本件実用新案権の実施品と同種の取付用通風器につき、意匠権に基づく「製造」のみを許諾する意匠権通常実施契約を締結し、実施料を一個につき三〇円としており(甲第二二号証)、本件実用新案権の製造についての実施料は一個当り三〇円が相当であり、したがつて原告は実施料合計一六四九万六五二〇円相当の損害を蒙つた。
よつて、原告は被告に対し、「販売」の実施料一一三四万〇七三五円から支払ずみの実施料一九七万一八八五円を控除した九三六万八八五一円の内金九〇〇万円と、「製造」の不法行為による損害金一六四九万六五二〇円の内金一一一〇万六〇〇〇円の合計二〇一〇万六〇〇〇円、及びこれに対する本訴状送達の日の翌日である昭和五六年二月二一日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。」
【理由】
一請求原因1(一)の事実(本件実用新案権の存在)は当事者間に争いがなく右争いのない本件考案の「実用新案登録請求の範囲」の記載、本件考案の実用新案公報によれば、本件考案はその構成要件を請求原因2(一)記載のとおり分説し、同(二)記載の作用効果を有することが認められる(この点は被告において認めるところである)。
二被告がイ号、ロ号物件を業として製造販売していること(請求原因3)及びイ号、ロ号物件の構成(請求原因4(一))は当事者間に争いがない。
そこでイ号、ロ号物件の構成と本件考案の構成要件を対比すると、前者は後者をいずれも充足し、したがつてイ号、ロ号物件は本件考案と同一の作用効果を奏するのであるから、イ号、ロ号物件は本件考案の技術的範囲に属するということができる。
被告は、周枠3、縦断面形状の差異を主張するが、右差異は本件実用新案公報の実施例と比較しての差異にすぎず、右形状は実用新案登録請求の範囲の要件とはなつておらず、右差異のあることは前記結論を左右するものではない。
三原告が被告に対し、昭和五四年一〇月五日本件実用新案権の実施品の販売の実施権を許諾したことは当事者間に争いがない。
被告は、本件実施契約により製造についても本件実用新案権の実施許諾を受けていると主張するので、以下判断する。
1 原被告間に<証拠>の各契約が成立していることは当事者間に争いがない。
右争いのない事実に、<証拠>を総合すれば、以下の事実が認められる。
(一) 原告、被告は昭和四五年一月一四日、原告の有する意匠権(登録第三〇一三八号)につき「販売」の専用実施権を許諾する契約をなし(<証拠>、なお右契約書の中で、被告は一時金として三二五万円を支払うこと、実施料は大卸価格の三パーセントとすること、原告は被告に納入している訴外会社及び大和技研工業株式会社が同意匠権の実施品の製造を承認すること、期間は五年とすることが定められた。)、昭和四五年三月六日範囲を販売とする専用実施権の登録がなされた。
一方原告は昭和四四年一二月三〇日訴外会社との間で本件意匠の実施品を被告に納入するために製造することを許諾し、期間は昭和四六年一一月一五日までで更新可能とし、実施料として一個当り三〇円を支払う旨約している。
その後昭和四七年六月二一日本件実用新案が公告されているが、原被告間及び原告と訴外会社間で本件実用新案権がどのように取扱われたのか必ずしも明確ではない。
(二) 更に昭和四五年四月二二日原告は被告との間で追加契約書を締結し、その範囲を製造販売とする専用実施権の登録をなした。
しかし原被告間で同日付契約書を作成し、右契約書には右追加契約の目的を原被告両者が第三者による侵害行為を確実に排除するため便宜上作成したものであり、基本契約のみに従い実施されることが明記されている。
(三) その後原告と高橋タカミとの間で類似品をめぐり、差止請求訴訟や、無効審判請求事件がおこり、それに関連して被告が実施料の減額を求めたため原被告間でも紛争がおこり、被告は本件実用新案権の実施品(イ号、ロ号物件)及び前記意匠の実施品を前記下請により製造させて販売し続けたものの、実施料の支払は中止した。
(四) 原被告は昭和五四年一〇月二日従来の紛争につき和解し、過去の実施料合計として二五〇〇万円を支払うこと、今後の工業所有権の通常実施権許諾に関する契約書を作成し、この場合の頭金を一〇〇〇万円とすることを約し、昭和五四年一〇月五日被告は原告に二五〇〇万円を支払つた。
(五) 昭和五四年一〇月五日、原告代理人宮崎弘と被告(担当者打土井正二)は契約条項を話合い、次の条項の乙第一号証(甲第五号証と附則十一条の「にもとづき処理す」が「の適用を受け」と訂正されている点を除き同じ、以下同じ)が作成された(本件実施契約)。
「 第一条 甲(原告のこと)はその所有する意匠登録第三〇一三八六号並びに実用新案登録第九八九三三九号取り付用通風器全製品の販売について通常実施権を乙(被告のこと)に対し設定する。
第二条(実施料)(イ) 乙は通常実施権の設定金壱千万円也を本契約締結と同時に甲に対し現金にて支払う。
(ロ) 乙は甲に対して、乙の定める仕入価格の三%をその仕入数量に乗じた金額をランニングロイヤリテーとして支払う。
第七条(生産と販売) 甲乙は協議し品種を定めその生産と販売を行う。
生産は甲乙協議の上成型業者を指定し販売は全て乙が総発売元としてこれを行う。
(六) 原告は昭和五五年五月二二日付で右契約書第七条の協議を被告に申入れ、更に同年一〇月七日には、原告は、実施品の製造を株式会社寺岡製作所に委託し、同社から被告に販売する旨の最終案を提示したが被告はこれを拒否した。
なお原告は前記頭金一〇〇〇万円を昭和五五年六月一三日になつてようやく受取つたが、本件実施契約第九条に定めた証紙は被告の要請にもかかわらず被告に交付していない。
(七) 被告は本件実施契約後も従来どおり訴外会社及び大和技研工業株式会社に下請させてイ号、ロ号物件を製造させこれを販売しており、右数量及び実施料を原告に報告し、右実施料を支払つている。
2 そこで本件実施契約が被告に製造の実施権を許諾したものであるか否かにつき検討するに、右のとおり原告は従前から実施権につき製造と販売を区別して契約書を作成しており、本件実施契約では実施権は「販売」について与えられている旨の記載があり、そのほか、実施料は仕入価格を基準とし、甲乙協議の上成型業者を指定するとの条項があるなど、被告に「販売」の通常実施権を与えることを前提とした記載がみられることを考えると、本件実施契約により被告自身に製造の実施権を許諾したことを認めることはむつかしく、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。
被告は本件実施契約書の「販売」の記載は素人であつたため見すごしてしまつた旨主張しているが、本件実施契約書には他にも「販売」の実施権であることを前提とする記載があり、単なる見すごしと解釈することはできない。
更に、被告は、原告は従前の下請による製造を許諾したと主張するので以下検討するに、被告は従前から訴外会社らを下請としてイ号、ロ号物件を製造させこれを販売してきたものであり、本件実施契約の前後で右形態に変化はなく、また、本件実施契約は従前の紛争を解決するための和解契約に基づくものであり、更に、証人打土井の証言中には、昭和五四年一〇月五日の交渉の際、本件実施契約書第七条の「生産は甲の主権に基づき甲及び甲の指定する成型業者が行い販売は全て乙の主権に基づき行う。」を、「生産は甲乙協議の上成型業者を指定し販売は全て乙が総発売元としてこれを行う。」と訂正し、被告の従来の下請にそのまま製造を認めることに合意した旨の証言部分がある。
しかし、前記1(一)認定の甲第一九号証の契約の場合は、納入先についても契約中に明示し、製造の承認を与えているのに対し、本件実施契約の文言は「甲乙協議の上成型業者を指定し」となつており甲第一九号証と条項の定め方が異なつており、右文言自体今後の協議を予定した内容となつていること、そして右文言が被告の主張するような新製品についての条項であるとすることは右実施契約が原被告間の紛争後の和解契約に基づくものであり、イ号、ロ号物件の製造につき明記せずに将来の新製品につき定めることは不自然であること、前記甲第一九号証の契約は期間五年間で本件実施契約時すでに期間が満了しており、本件実施契約が右甲第一九号証の契約と同一の内容でなければならない必然性はないこと、本件実施契約後の原告と訴外会社間の本件実用新案権の実施契約関係が明確ではないこと、また原告は本件実施契約後、被告に対し成型業者につき協議を求めたり、証紙の交付を拒否していることに照らすと、前記事実から直ちに本件実施契約により原告が被告の従前の下請による製造を許諾した事実を推認することはむつかしく、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。
3 したがつて、本件実施契約により製造の実施権についても許諾を受けたとする被告の前記主張は採用できない。
四また、被告は、訴外会社は原告から本件実用新案権につき製造に関する実施許諾を受けており、訴外会社から仕入れている被告の行為は侵害とならない旨主張し、前記のとおり昭和四四年ころ原告と訴外会社間に意匠権の実施品の製造に関する実施契約がなされたことがあるものの、本件実用新案権の製造につき許諾を受けたか否か必ずしも明確ではなく、本件で原告が損害賠償を請求している昭和五四年一〇月五日以降原告が訴外会社に本件実用新案権の製造の実施権を許諾したことを認めるに足りる証拠はなく(なお証人矢野侑の証言中に現在も原告と訴外会社間に実施契約が存するかのような証言が存するがにわかに採用できない)、結局被告の前記主張はその前提を欠き採用できない。
五被告が原告に実施料一九七万一八八五円を支払つたことは当事者間に争いがない。
右事実に、<証拠>を総合すると、被告は昭和五四年一〇月五日から昭和五七年二月二一日までの間被告が下請から仕入れて販売してきたイ号、ロ号物件につき仕入数量、仕入価格、実施料額(仕入価格の三パーセント)を原告に報告し、右各実施料を支払つてきたことが認められる。
ところで、原告は仕入数量につき請求原因7のとおり主張し、これに添う甲第二三号証(別件の原告本人尋問調書)があり、またこれを裏付けるものとして甲第三号証(昭和四九年ないし昭和五三年までの各年度の被告のイ号、ロ号物件の販売数量の記載がある)、甲第一二号証(訴外会社の同年度のイ号、ロ号物件の製造量が記載されている)を提出しているが、甲第二三号証の販売数量はこれを裏付ける客観的な資料がなく、甲第三号証、甲第一二号証の数字も製品のライフサイクル、社会経済の変化を考えると、右数字をそのまま昭和五四年ないし昭和五七年の販売数量として認めることは困難であり、被告が原告に報告した仕入数量を超える部分について他にこれを認めるに足りる証拠はない。
更に原告は仕入価格についても請求原因7で種々主張し、中小企業の経営指標を提出しているが、右甲第一三号証の一・二の数字が一般的な数字であることを考えると、原告の主張する仕入価格を採用することはむつかしく、被告が原告に報告した仕入価格を超える部分について他にこれを認めるに足りる証拠はない。
したがつて、被告が原告に報告した仕入価格、仕入数量に基づき実施料を支払つている本件においては、被告に販売に関する実施料支払の点につき債務不履行があつたものとは認められない。
六被告は下請を使つて業としてイ号、ロ号物件を製造しており、販売について通常実施権を有していても、製造の点で本件実用新案権を侵害することが否定されるわけではない。
そして、右侵害は過失によるものと推定され(実用新案法三〇条、特許法一〇三条)、被告は実施料相当の原告の蒙つた損害を賠償すべき義務がある(実用新案法二九条二項)。
ところで、原告が被告の右製造を不法行為としてこれに因る損害賠償請求権の行使を、販売実施料の請求とは別個独立したものとして始めて明確に主張したのは、昭和五九年七月一七日付第五準備書面の陳述(同月一七日受付)によつてである(訴状請求原因一〇項の記載では全体を通じ、不法行為を理由とした販売に因る損害賠償の請求と解されるにすぎない。また、昭和五九年二月二三日付請求の趣旨訂正申立書の記載でも同じく販売に因る不当利得金の返還請求となつている)から、昭和五六年七月一六日以前の製造分については、原告が損害及び加害者を知つた時から三年を経過しており、原告の方で中断を主張していない本件においては、被告の昭和五六年七月一六日以前の不法行為責任は時効によつて消滅しているものといわざるをえない。
そこで製造に関する実施料につき検討するに、前記のとおり原告は訴外会社に実施料を一個当り三〇円として意匠権の製造のみの実施権を許諾し(甲第二二号証)、一方原告は、訴外会社から製品の納入を受ける被告に対し大卸価格の三パーセントの実施料を支払う約定で販売の専用実施権を許諾している(甲第一九号証)が、右は意匠権についての実施料であり、実用新案権については必ずしも明確な契約書もなく、本件実用新案権の実施料として一個当り三〇円の実施料をそのまま採用することにはちゆうちよを覚え、結局本件実施契約中の原被告間の本件実用新案権の販売についての実施料、すなわち仕入価格の三パーセントをもつて本件実用新案権の製造の実施権の実施料と認めるのが相当である。
そうすると、実施料合計額は、前記<証拠>によると、昭和五六年七月一七日以降昭和五七年二月二一日までの製造(下請会社からの仕入)数量は別表該当欄記載のとおり(ただし、甲第一〇号証の二二〔昭和五六年七月一六日から同年八月一五日までの数量報告分〕、乙第五号証の五〔昭和五七年二月一六日から同年三月一五日までの数量報告分〕の仕入数量のうち昭和五六年七月一七日以降の分、あるいは昭和五七年二月二一日までの数量は日数割により算出した。)であり、右個数に別表該当欄記載の仕入価格及び三パーセントを乗じた別表実施料相当額欄記載金額、合計三八万七〇〇八円となる(ただし少数点以下はすべて切捨)。
七よつて、本訴請求は右三八万七〇〇八円及び別表実施料相当額欄記載の各金員に対するその各不法行為の日以降である同表遅延損害金起算日欄記載の日から各支払ずみに至るまで年五分の割合による金員の支払を求める限度で理由があ<る。>
(潮 久郎 紙浦健二 徳永幸藏)